所詮、仕事ですから

「問題即解決」を座右の銘にしている人がいる。かく言う私もその一人である。

問題があれば、即時に解決を試みること。特に仕事においては所謂使えるヤツであるための要素の一つであろう。利点は、相手に喜ばれること、「Thank you for the quick follow up」などと持ち上げられる。問題に関連するストレスが減る。その日の問題をその日のうちに解決すること、無理であれば目星をつけておくこと。これができれば気持ち良く帰宅することができるし、寝付きもよくなることであろう。

しかしながら、「問題即解決」はあくまで平時におけるアプローチであることを肝に銘じる必要がある。解決を急ぐ人は、自分のストレスを減らすことを最大の目的としている。いや、相手に喜ばれることが目的ではないのか、自分を犠牲にしても他人に奉仕する心持ちがあるのではないか。本当に他人のためを思う奇特な人もいないわけではないであろうが、多くは、「他人によく思われたい」「他人に迷惑をかけないことで自分の評価を下げたくない」という「他人から見た自分」を気にしており、それも結局は自分のストレスを減らす、という目的に繋がるのである。

仕事においては、いつでも平時というわけにはいかない。時には有事、もっといえば戦時といえるような時期も少なからず経験するのである。有事の際には、全ての業務が滞り、強烈なプレッシャーを受ける局面もある。そんな時に「他人がどう思うか」を気にしていたら、自分が潰れてしまうのである。全てを誰かのせいにして、自分の正当性を主張する。対応の負荷が高い問題を放置してチキンレースに持ち込む。そんな後ろ向きな対応が必要になることもあるのである。

問題解決の手法として正しくないという人もいるであろう、それが正論だ。しかしながら、そのような人にとっても問題の解決を急がず、しばらく「寝かせる」ことの利点は理解できるのではないだろうか。問題が燃え盛っているときはステークホルダーが多く存在し、利害が複雑に絡み合っていることも多い。また問題の実態も完全に把握できていないこともある。そのような時には、あえて暫く寝かせてみるのである。すると問題の真相が徐々にクリアになって、ステークホルダーが時の経過とともに減っていく。事によっては、時の経過とともに問題が消滅することもある。

「急いては事を仕損じる」これもまた真なりである。

平時において、自分がコントロールできる範囲では問題即解決を実行する。状況が有事、戦時にシフトしてきたら、コントロールできないかも、という問題についてしばらく寝かせることにする。問題をノートにメモした上で、自分の脳内でも寝かせておく(忘れる)ことにする。忘れることで、コントロールできる範囲の他の問題に集中できるし、何より精神衛生上好ましい対応なのである。

しかしながら、常に問題即解決を心がけるような気にしすぎな人が、解決できない問題を放置して忘れることができるのか。そのままでは、難しいであろう。だが、気にしすぎは性格の問題ではなく技術的な問題であることを肝に銘じるのである。自分が迷惑をかけるであろうあの人は所詮他人、どう思われたってよい、とか所詮仕事、そこまで思いつめる必要はない、など。「所詮」がキーワードかもしれない。このあたりの「気にしない」テクニックに関するノウハウ、書籍は巷に溢れている。それを一つ選んで、真剣に読み込み、騙されたと思ってそのまま適用してみるのだ。頭だけでわかったつもりになったり、取捨選択していたら、理屈ではわかっても身にはつかないからだ。

平時と有事、戦時における仕事に対するスタンスの違いを、物事がうまくいっている時、つまり平時から常に認識しておき、有事、戦時に対する準備をしておくのだ。

気にしすぎな人は潰れてしまう前に自分自身に語り掛けよう。その人、所詮他人ですから。それ、所詮仕事ですから。