立ち上がれ岡田、もう一度

2018年7月21日、ZOZOマリンスタジアムでのロッテvsオリックス戦。

それは、7回裏の出来事であった。ロッテの攻撃、0対1のビハインドで、8番田村が2点タイムリーヒットで逆転の2対1、9番鈴木がライト前ヒットで続き1アウト1,3塁という絶好の追加点のチャンスである。

打席は1番ルーキーの藤岡、ここで井口監督は1塁走者鈴木に代わり代走岡田を送り出した。貪欲にさらなる追加点を狙いにいくとともに、鈴木が守るサードには、内野手でありながら外野で出場している平沢を回し、外野にそのまま岡田を入れることができる。まさに足と守備のスペシャリストを有効に活用できる局面であった。

藤岡はど真ん中のストレートを打ち返すも、大きなセンターフライ。足が早くない田村であったも犠牲フライには充分であった。

しかしである。田村とともに何故か1塁の岡田もタッチアップ・スタート。五輪種目パシュートのようにダイヤモンドの対角線上に走り出したのである。もちろん田村は悠々とホームインしたのであるが、センター大城からの返球は途中の二塁ベースでカットされ岡田がタッチアウトとなったのである。

一瞬球場の時が止まった。タッチアウト後、淡々とベンチに戻る岡田を除いて。

テレビ中継においても、1点は認められる、認められないと何度か言い直す混乱が見られ、ピッチ上も井口監督が審判に詰め寄るものの、田村のホームインよりも岡田のタッチアウトが早かったというアナウンスがあり、7回裏の攻撃終了。

あと2回、ロッテは先発ボルシンガーは神がかりの10連勝中、今日も11連勝をかけての好投であった。しかし抑えの投手陣に不安があった。クローザーの内は前日の同オリックスとの試合、9回登板時に打ち込まれ失点、同点となり、延長。結果としてサヨナラで勝ち投手になったものの、2イニング42球を投げていた。その前の試合7月18日の楽天戦では、内の前を任されている益田が四死球で自滅、負け投手になっている。

ロッテにとっては、是が非でも欲しい1点を、岡田の暴走により自ら返上する格好になってしまったのだ。

岡田は8回からそのまま外野守備に入り、ボルシンガーが8回、益田が9回を抑え、2対1で逃げ切り、チームはカード2連勝を果たした。喜ぶチームの面々をよそに岡田はベンチに戻ると大塚外野守備・走塁コーチと暫く話をした後、道具を持って足早にベンチ裏に引き揚げていった。

 岡田はどうしてしまったのだろう。開幕から一軍ベンチ入りし、主に代走、守備固めとして起用されているものの、打撃についてはその時点で10打席7打数無安打。しかも前年は44打席33打数無安打に終わっている。3年越しのNPBの連続無安打記録を更新、継続中なのだ。

それなのに、自分の存在理由であるはずの走塁での大チョンボ。明くる日私が巡回したマリーンズ関係のブログでは、コメント欄含め、岡田はもう終わった、怒りを通り越して憐みのレベルという論調が大勢を占めた。

しかし次の日も岡田は同じようにベンチ入りし8回から外野の守備固めに入った。かつては選手会長も務め、新任の井口監督とも現役時代から苦楽を共にしていることから、よほど信頼を勝ち得ているのであろうか。しかしながら、今のような使われ方で一軍に置いておいてもチームを活性化することはないであろうし、1本安打がでるのも覚束ないのではないだろうか。

岡田よ、我々は知っている。君が腐りながらベンチに座っている選手ではないことを。

我々は今も鮮明に覚えている。

既婚で2人の子持ち、足利ガスの正社員の座を蹴って栃木から2008年ドラフト育成選手として入団を決断した覚悟を。

支配下登録されたものの1年目は二軍で過ごし、シーズン後のファン感謝デーの紅白戦というお遊びにおいてもベンチから外野守備に就くために全力で走る背番号66を。全く無名ながら、他の選手とは異次元の体のキレとスピードを見せつけていた。悪く言えばイキった奴だと思った。

2010年、荻野、早坂がケガで斃れた後に掴んだチャンス、いきなりの日本シリーズでの3塁打でヒーローになった際ファンの前で披露したバク転を。

2011年、東京ドームで巨人ファンを絶望の淵に沈めた3連続ファインプレーを。

2000打席以上の本塁打なしの記録は、不名誉なものではなく、むしろ誇らしいものであった。俊足ながらバットを振り切り、内野の頭を超す強い打球を放つことが持ち味なのだ。

これだけ無安打が続けば、精神的なダメージやプレッシャーも相当であろう。焦りが無謀な走塁に繋がったという意見もある。

現在の状態や一軍ベンチにおける存在意義は本人や監督、コーチにしかわからないのものではあるが、ここは1回静かな環境で走り込み、またとことんまで打ち込み、自分を見つめ直す時間を持った方がよいのではないだろうか。

岡田よ、君はこんなところで終わる選手ではない。散々奇跡を見せつけてきたではないか。連続無安打により、ある意味舞台は整った。守備と走塁の便利屋は一旦他の選手に任せ、今そこにある新たな奇跡のための準備に選手生命を賭けて取り組んでほしい。