ガバナンスの仕掛け-AccountabilityとChallenge

プロジェクトなど有機的な組織の日常活動は決断の連続だ。まず、何をやるのか、何をやらないこととするのかを決断する。実行段階に進み問題が発生すれば解決をするため、優先順位を決定するための決断に迫られる。また実行が完了しても、その結果は終了条件を満たしているか、次の工程に進んでいいのかを判定、決断する必要がある。

組織を運営しているのは、人間だから誤った決断をすることもある。組織としてはなるべく間違えないようにする仕組みがガバナンスだ。

人間は間違える、を前提とすれば、一人の人が決断をしないようにするのが対応の原則だ。そのキーワードとしてAccountabilityとChallengeという単語を挙げる。以前述べたVisibilityと同じく、あてはめてしっくりくる日本語が無いような、欧米の組織論から生まれた言葉だと考えている。

Accountabilityは組織におけるRoleの一つである。

RoleにはResponsibility、Accontability、Consulted、Informedの4種類があり、これらを組織における活動やマイルストーンでのイベントなど対して、それぞれのRoleを誰が担うかを決める。頭文字を取ってRACIといわれる。Consulted、Informedは責任を伴わず、相談や報告を受けるような人たちである。おもしろいのが責任を取る役割が2つあること。Accountabilityは全てのステークホルダーに対する「説明責任」を意味する。一方でResponsibilityは「実行責任」だ。どちらが偉いかというとAccountabilityになるのであろう。Responsibilityを持つ実行責任者の決断の結果を外部に説明する責任を担うのだから、自然と実行責任者を監視、監督する立場となる。説明責任者が対応するステークホルダーには、組織/プロジェクトの上部組織の管理者、会社であれば株主、社内で関係する他部署、所管官庁、マスコミなどが含まれるであろう。例えば、実行責任者が期日に間に合わせるためにメンバーに過重労働を課してプロジェクトを遂行したとしても、説明責任者は、人事部に対して、労働環境として適切かという観点でも説明責任を負うため、実行責任者の決断をレビューし、不適切と判断すれば、必要に応じて期日を諦める、またはスコープを限定するという決断を下し実行責任者に指示をする必要もある。

かといって、実行責任者が何の責任も負わないわけではない。組織/プロジェクトを遂行する一義的責任を負うから、そのためのプランを考え実行に移すことに責任を持つ。

日本型組織のプレイングマネジャーで自分が全てを決めて実行し部下をコントロールするタイプの責任者もいる。非常に有能な実務家であると思うが、その人だけが超多忙で部下は常に指示待ち。その人が休んだら実務が止まるというパターンはよく見られる。

AccountabilityとResponsibilityという権限の分離は、個人の自発的な行動を促し、組織の持続可能性を高め、もし誤った決断があれば方向修正をするための仕組みとして、よくできたものだと思う。

 次にChallengeという言葉について。日本語にもなっているチャレンジであるが、いい意味で使われることが多いと思う。新しいことにチャレンジするとか、進研ゼミの「こどもちゃれんじ」とか。

しかしながら、組織においてのChallengeは、ある人の決断に対して、本当に正当なものか問いかける、さらに言えば異議を唱え、正当なものであることの説明を求める、という組織内のコミュニケーションにおいて、かなりストレスがかかる局面に使われる言葉である。

ある人が決断を下したとする。その決断に対して上司や結果に責任を負う人は、その正当性を問い、疑問に思ったことをChallengeする。決断を下した人はその疑問に対して回答をする必要がある。納得を得られなければ方向修正も必要であろう。言葉にすれば簡単なことであるが、担当者からすれば、苦労して積み上げてきたものを一刀両断で全否定されることもある。関係する人たちのストレスは並大抵ではないが、それによりその決断自体が磨かれていくし、間違えた決断をするリスクも低減される。

AccountabilityとChallenge、どちらも厳しいことだし日本人には馴染まないものかもしれない。しかしながら組織運営/プロジェクト管理には万国共通で必要なことだと理解している。