AIがもたらす未来

AIがさらに進歩、普及した将来の世の中に対する悲観論がある。「AIが仕事を奪う」というものだ。

例えば一業種、一会社、一部署という単位において、AIを導入するという話であれば、それは確実に人が行っていた作業をAIが行うことになるから、その業種、会社、部署においては、その仕事は確実に奪われることになる。

例えば、金融機関における与信審査の仕事をAIで行うとする。今まで与信審査を行っていた人の仕事が無くなるわけだ。しかし、それであれば、今まであらゆる業種で進められてきた機械による作業の自動化と同じではないか?

作業の自動化という段階であれば、人間の仕事は無くならない。その機械をお守りしたり、結果をチェックする仕事が必要であるからだ。この段階においては、まだ機械は人間の管理下に置かれている。

AIが単なる作業の自動化と違うのは、人が経験により蓄積したさらに複雑なノウハウやウェットな人間関係などをもとに判断を要する作業、つまり今まで機械により代替できないと考えられた分野においても機械が進出してきているということなのだ。これは将来、人の仕事の概念を覆すようなポテンシャルパワーを持つものだ。

AIがもたらすかもしれない未来に至るプロセスを整理する。

  • AIが活躍する社会になるためには、あらゆる情報がデジタル化され、蓄積、共有される必要がある。購買、交通機関を利用した移動、銀行口座などの履歴情報、インターネットにおける検索履歴、個人の健康、医療の情報など。
  • 加えて、これら様々な分野の情報はID連携により、特定の個人の属性として識別される必要がある。
  • 個人の属性として自らの個人情報、活動履歴を提供することに抵抗を覚える人が多いことであろう。そのため、情報を提供する人に対してのベネフィットを明確に示す必要がある。情報を提供する見返りに商品購入において一定の割引が適用されたり、優遇されたりするなど。ベネフィットは必要に迫られるレベルである必要がある。例えばスシローで休日夜2時間順番待ちすることに対して、アプリをインストールして予約し、順番が来たことが通知されたら行けばよい、そのくらいの「やるのが当たり前感」「やらない人情弱なの?感」が必要であろう。
  • 現在の若者は、子供のころからパソコン、タブレットスマートフォンを使いこなしている世代である。この世代にとっては、上記のベネフィットを得るために個人情報を提供することに対する抵抗感は、それより上の世代と比べれば確実に低い。そう考えれば、今後10-20年で考えれば社会にデジタル化される個人情報、活動履歴は世の中において無視できないカバレッジを有することになる。
  • ここまで述べた個人情報・活動履歴の情報が無視できないレベルで蓄積、共有されている、ということがAIが人の仕事の概念を変えるまでの存在に至るための前提条件となるであろう。
  • AIにより、無視できないカバレッジのデータが統計的に分析されることが、仕事の概念を変えることにつながる。例えば営業の仕事。今まではある特定の取引先に通いつめ、その担当者との関係を深め、趣味嗜好を知ることが、売上と利益の向上につながっていた。それはいわば競合他社との商品の差別化が難しく、何が良い商品なのかということが非常に曖昧であるからだ。それがデータにより完全に分析できるとしたら、商品の優劣をより明確に示すことができることができる。そうなると、商品の魅力というのは営業力ではなく、あくまで過去の商品の売上実績とその傾向のデータによる実証がより信頼できるということだ。
  • それは人間がその人の言葉で商品を売り込むことの価値が低下したことを意味する。そうなるといわゆる会社で幅を利かせていた「営業」という仕事をAIによるデータ分析が無価値化するということになる。
  • かつデータ分析の結果は人間が想定する理屈を超えてくるため、AIによる計算結果は、人間が検証できない。AIは人間の管理下に置かれず、人間の仕事を置き換えることとなる。

個人情報・活動履歴のデジタル化とAIによる分析により、今まで人間が行ってきた仕事の価値が無くなるとともに、仕事の概念が変わるというストーリーである。

ここまでデジタルデータとAIが普及して、さらにその先に、人間が行わなければならない作業量が減り生産性とともに給料も上がると楽観的に考えるのか、AIに仕事が奪われると悲観的に考えるのかという議論があるのだ。それほど近い将来ではない。

それは、AIによるベネフィットが、仕事を奪われた労働者層にまで届くのか、投資家・経営者、いわゆる富裕層に留まるのかという、まさに仕事の概念と社会の構造変化にまで言及する議論となる。AIのパワーは、資本主義社会の中でより強固なセーフティネットを構築できるのかどうかという議論については、現時点ではまだ空想の域を出ないものである。

まだまだAIの導入実績を積み重ねて、それによる変化を見定めてみないと、AIが人間に置き換わるのかはわからない段階であるから、あまり心配せず、AI導入に適応する努力をすることが肝要であると考える。

 

現時点でAIのポテンシャルパワーについて解説をしている書籍はないものかと探し「AI2045(日本経済新聞社)」を購入した。AIがもたらす未来についてヒントを得られたらまた投稿をしたい。